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ちょっと本を作っています

ちょっと本を作っています

第一話 なぜナタマメ茶を作ったのか?

前編 なぜナタマメ茶を作ったのか?



ある日突然

「今、近くにテレビありますか?」

「見て欲しいんスよ、TBS放送」

「そうスか。テレビ、無いんスか。残念だな」

「後でそちらへ行きます」

「いやーァ、面白い放送やってるんスよ。ナタマメって知ってます?」

「そちらへ行ってから話します。じゃあ、後で」


何をバカみたいに興奮してるんだろう。

電話の主はヒップホップダンサーだ。

このダンサーのことはこのあとAと書こう。

ソールバーをやりながら、虎視眈々と次のステージを目指している男なんだ。

日本人離れした風貌だが、残念ながら100%日本人だ。

「お茶でしょ」

「中国でしょ」

「漢方ですよね」

「そして健康がテーマ」

「王さんとMさんの得意分野のキーワードが全部入ってますよ」


実は私は出版屋なんだ。

さまざまな本を手掛けて来たが、近ごろは医療と健康をテーマにした本が多い。

この医療や健康食品の世界、うさんくさい業者が多いので、持ち前のアマノジャクぶりを発揮している。

怪しい匂いがするようだと、幾らお金を積まれてもNOのひと言をいい続けている。

だからいつもピーピーしている。

もともと貧しいせいもある。


話に出てきた王さんは、ホテル向けの高級中国茶を輸入している中国人。

まだ日本へ来て十年ほどだが、なかなかのガンバリ屋さんだ。

「中国から本物を輸入しましょう」

「私の父親が中国で手広く事業を手掛けてます」

「品物の質はバッチリ管理できますよ」

「中国にはもっともっとイイ物がいっぱいあるよ」

と聞かされ続けていた。

「あんなデタラメだらけの健康食品でなくて、本物を輸入しましょうよ」

とも言われていた。

そのことをヒップホップダンサーのAは覚えていたんだ。


その日の夜遅くなって番組を録画したビデオ片手に現れた。

「途中からしか撮ってないんスけど、見て下さい」

「オイラ、ついこの前、腎臓が弱ってるって医者に言われたとこなんスよ」

「腎臓が弱ると若ボケになるってショックなんだよね」

「腎臓が悪くなくたって、ウチの店にいた連中、ナタマメ茶が欲しいって言ってたんスよ」

「集中力や記憶力を回復させるんなら、誰だって欲しがりますよ」

「これやりませんか。本を作るだけじゃなくて、キッチリとした健康食品を作らなきゃ片手落ちでしょ」

「王ちゃんとMさん、それにホームページはオイラが作れば、出来ますよコレ」

「ホームページだけで飛ぶように売れますよ。それに、Bさんにも売ってもらえばいいしね」

Bさんとはいつも私の部屋でゴロゴロしている男なんだ。

何でも商売にする便利屋みたいなことをしている。


翌朝、東京駅の八重洲地下街にある王さんのお店に行って話した。

気の短い王さん、早速中国へ電話してワオーワオーとわめいている。

中国語なんてオレにはチンプンカンプン。

それも王さん早口で一方的にしゃべるから、まるでケンカしてるみたいだ。

「Mさん。あるよ、ある。それも特上のやつが」

「今、海軍病院で漢方薬を作るためにストックしてある分を押さえたからね」

私がまだ、ヤルともヤラナイとも言っていないのに、もうそこまで話が進んでしまった。

でも仕入れ資金がなければ無理だっての。そんなお金、オレには無いよ。

ダンサーの男だってピーピー言っているしね。



何でこうなるの

たまたま訪ねて来た医療関係の検査会社をやっているCさんにその話をした。

「いいですよ。来月、病院売買の仲介手数料が500万円ぐらい入るから、出資しますよ」

AとBさんにCさんが加わって、みんなすっかりその気になって盛り上がっている。

『ヤルしかないか、しょうがねえなあ』ってのが、その時の私の本音だった。



みんな走りはじめてしまった。

でも、商品紹介のキャッチコピーは誰が書くんだよ! 

販路の開拓は誰がやるんだよ! 

物流管理の手配は誰がやるんだよ! 

それに、焙煎とティーバック化は何処でやるんだよ! 

その前に商品テストはどうするんだよ! 

そんなことは私が考えるだろうって、みんな勝手に思い込んでいる。

困るんだよ。いつもこのパターンなんだ。


バタバタがはじまった。

材料の品質確保と輸入は王さんに任せておいて問題ない。

それ以外はすべて未知との遭遇。

今まで健康食品について文句ばっかりたれてきただけに、一切手抜きはしたくない。

先ずはどのような商品に仕上げるか、焙煎テストをやらなければならない。

そのような準備をしている矢先に、Cさんがお金が出来ないって言ってきた。

冗談じゃないよ、王のお父さんが無理やり海軍病院から引っ張り出したナタマメは上海に着いている。

今さらキャンセルなんて出来ない。まして面子を重んじる中国人だ。

陸軍の准将が海軍に圧力を掛けて引っ張り出したナタマメ茶だよ。


「一ヵ月もあれば、売れますよそれぐらい」

Aが自信たっぷりに言ってきた。

「一週間もあればホームページも立ち上げます」

ここまで来れば、しょうがないか。

王と王のお父さんの顔を潰すわけにはいかない。

繋ぎ資金を掻き集めるしかない。

「売ってくれるんなら。一ヵ月ぐらい何とか資金手当てするよ」

そうせざるを得なかった。


ナタマメの粉砕粒子の大きさはどれぐらいがいいのか?

そして焙煎の程度は……?。

ウーロン茶ブレンドも作ろう。

どのウーロン茶と相性がいいのか? 

そして、どの程度のブレンド比率がいいのか?


売り方はAとBに任せておくしかない。

ホームページが決め手だとAも言っている。

こうなれば私は、最高のものを作り上げることに専念しよう。


お腹が、ガボガボになっている。

今朝から何杯飲んだのだろう。

幸い、インターネットで知った彩香茶園という静岡のお茶屋さんがある。

ここでティーバック加工をやってくれることが決まった。

それなら焙煎もお茶どころ静岡で評判のいいところを探そうと彩香茶園さんに相談した。

「それなら、ヤギショーさんですよ」と教えてくれた。

さっそくヤギショーさんで商談。

いくつかの焙煎見本を作ってくれることになった。

だから、味だけは自分で確かめなければと、ナタマメ茶の洪水に立ち向かうことと相成ったのだ。


部屋中ナタマメ茶の香ばしい匂いで包まれている。

でもそんなことを感じていたのは最初だけ。

何十杯も飲まされては「もういい。助けてよ」の悲鳴も出てしまう。

偶然訪ねてきた来客も可哀想に、つぎつぎと出されるナタマメ茶にア然としている。

「出版社ですよね!?、ココ」

オレが聞きたいよ、ホント。


4月末にTBS放送で放映された晩から始まって、2ヵ月以上かかってしまった。

それなのにAのホームページは完成しない。

もう3週間も家に帰らずにやっているのだが、遅々として進まない。

知合いのパソコンに詳しい男に聞いたら、「一週間もあれば出来る」って言っていたのに。

急いで取り寄せたはずのナタマメなのに、1トンものナタマメが倉庫で寝ている。


ナタマメ茶のほうは完成した。

なかなかの出来映えだ、と自己満足。

あちこちのナタマメ茶を見本として取り寄せたが、格段の差がある。

商品化のシステムも完成した。


肝心のホームページのほうがまだ出来ない。

それにどう見ても、Aの作っているホームページで売れるとも思えない。

いくら何でもピントがづれ過ぎだと思うのだが、本人はそれでいいと思っているらしい。

すでに500万円以上の出費になって、当初の回収予定を過ぎているものだから大変だ。

すべて私があちこちから借金してきた金なんだ。


おまけにナタマメ茶にかまけて本業の出版の仕事を投げ出してたものだから、収入はゼロ。

後編 やっぱり巻き込まれてしまった


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